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■ web連載小説 江ノ島ベイビィ● 第3回

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 ドリルみたいな塔は、実は展望台だった。
 そして、そんな展望台が突き刺さっている島が、朝のテレビの定点観測カメラからの映像で良く出てくる江ノ島で、その江ノ島にボクはその後、住むことになった。
 犬のタマの飼い主である和田節子さんと言う女性の家の二階の一部屋が、ボクの部屋だった。節子さんには、すでに独立したお子さんが二人いて、ボクが居候させてもらっていたのは、その片方、公司さんという方が元々は住んでいた部屋だった。
 その部屋にはパソコンがなかった。だから自然にボクの生活は、メール以外のネット世界とは疎遠になっていった。ちょくちょく家の外に出かけるようになった。バイト代を貰うようになってからは、電車に乗って藤沢や鎌倉や平塚まで行ったりなんかも、普通にするようになった。電車に乗らなくても、江ノ島を散歩したり、海岸を歩いたり、とにかく、部屋の外へ出ることが今までに比べて格段に多くなった。居候だから家の中に居づらかったとか、そういうのではなくて、ただなんとなく、本当に気分的なことなのだけど、部屋にいるよりも、そっちの方が楽しかったのだ。
 ボクが二階に住み着くまでの和田家は、二階建ての一軒家に、節子さんとタマが一人と一匹とで住んでいた。節子さんは旦那さんと離婚して、その慰謝料だかなんだで、この家を貰ったのだそうだ。節子さんは結構、新しいもの好きで、それでいて古いものも好きで、その両方を付け合わせたような1950年代の日本映画のDVDボックスが、一階の居間にはずらりと並んでいたりした。黒澤明は見た事はなくても名前ぐらい知っていたけれど、小津とか木下とかは、初めて知った。
「私、出てるのよ」
 などと節子さんは笑って言った。節子さんはかつては女優だったという話だけれど、それが本当かは分からない。映画の制作年を考えるに、出ていたとしたら、子役とか、群衆の人とかになるだろうけれど、きっとそもそもが冗談なのだろうというのがボクとみささんの共通認識だ。
 みささんの家は、節子さんの家の隣で、ボクの部屋の窓とみささんの部屋の窓は向かい合っている。
 みささんの髪の毛は、やっぱりカラーを入れているのだそうだ。人形みたいな金色で、そこまで染めるには染める前にブリーチでかなり落とさなきゃいけないはずなので、時折、この人将来ハゲたりするんじゃないだろうか、と心配してみたりした。
 みささんはギタリストでボーカリストだ。
 それについては、色々と思う所もあるのだけれど、それも、追々。


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