Enoshima Baby!!
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■ web連載小説 江ノ島ベイビィ● 第3回

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 江古田から鎌倉まで家出して海岸沿いを一晩かけて延々と歩いてきたひきこもりのボクは、自転車ごと階段を転がり落ちて来たキレイ系のキミ女とケンカしながら、ドリルみたいな塔が突き刺さった島の方へ向かって歩いていた。
 彼女は自分が今日学校に行きたくないのを、ボクのせいにしようとしている。それが幼稚な責任転嫁だと分かったのは、不登校初期に同じことをボクがやったからだ。だから、ののしりあいながらも、精神的に追いつめられた人間の物の言い方と言うのは似るものだなぁ、などと苦い感心をどこかしらで抱えてはいたのだ。逆に言えば、それさえ分からなければ「なにコイツ変な人」で済ませて無視を決め込めただろうから、ケンカにはならないで良かったのかもしれない。世の中、分からない方がいいこともあるというのは本当だ。他人の気持ちなんてものは、まさにそれで、分かりさえしなければ、切り捨てるも傷つけるも容易になって、自分の利益追求のための行動への制限が少なくて済む。思うに、文部科学省とか学校は、子供を「他人の気持ちが分かるように」教育するのではなく、「他人の気持ちなどは分からないように」教育した方が、国益には適っているのではないだろうか。利益を得るということはどこかしらから他人の取り分を横取りするということだし、横取りだなんて分かってしまったら真っ当な精神ではやってられない。それなら、そもそもそれが横取りだなどと思わないように躾けなければいけないことになると思う。
 などと言うようなことを、怒鳴り合いの小休止の間、キミ女のいる海岸から目を上げまっすぐに前を見て歩きながら、ボクは考えていた。キミ女は数メートル下の砂浜をついてきている。なんだかホラー映画の幽霊みたいだけど、ぴったりと横にいるという気配がする。波音はずっと寄せては返しを続けている。ヒートアップしていたボクの頭が波にさらわれてクールダウンしていく。



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