Enoshima Baby!!
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■ web連載小説 江ノ島ベイビィ● 第0回

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 偉大なロックスターは二十七で死んで伝説になるという話がある。その歳で死ぬ人が多いので、それを題材にしたミステリだかSFだかの小説が出たぐらいだ。私は、まだ読んでいない。タイトルを忘れてしまったから、できれば誰か教えて欲しい。
 カート・コバーンも、ジミ・ヘンドリックスも二十七で死んだ。ジャニス・ジョプリンも二十七で死に、死後にアカペラのみの曲と、ボーカルなしのカラオケ状態の曲を含むアルバム「Pearl」を出した。その中の曲は、私も街で良く歌う。「ミー&ボビー・マギー」はディストーションで歪めたギターで歌ってさえ、足を止めて聞いてくれている人の大概にウケがいい。「クライ・ベイビー」は、あの出だしで、足を止め目を輝かして陶酔したような大きな笑顔でそのまま聴いていってくれる人と、少し立ち止まって私の方を見、眉を寄せ迷惑そうで憎々しげな視線を放って去っていく人の二種類があらわれる。勿論、どんな曲でも関係なく、ただ通り過ぎていく人の方が圧倒的に多い。
 あの出だし、が、どんなものかは明言を避けよう。聞いてみれば分かるし、聞かなければ分からない。それが真実だからだ。人間と一緒だ。言わない方が面白いから、というのも、無論、ある。それもまた、人間と一緒だ。葉月を見ていると、そう思う。彼女は分かりにくく、分かりやすく、そして面白い。

 私は二十五だから、二十七までは、あと二年。
 二年後に死ぬのなら、できるなら歌いながらがいい。弾きながらがいい。そして更に望みが叶うなら沸き立つ客席の興奮の中、ステージの上で真っ白になるまで燃え尽きて死にたい。
 死ねば、そこで何もかもが終わってくれる。燃え尽きて、そこで死んでしまえるのなら、その方がいい。
 だが、死ねなかったら? 生きるしかない。燃え尽きることができなかったら? くすぶったままで、そこで佇むしかない。
 就職し、結婚し、という仲間たちを見る昨今、いつまでもフリーター生活なんかを続けるなと口うるさい両親の言う事が、徐々に重く感じられるようになっている。数年前のようにキレたり反論したりが出来なくなったのは……親元に住んでいる生活の知恵だろうか。そういう狡さが覚悟のなさに繋がるから、燃え尽きるほどの代物にはなれないのだと思うことも、時にはある。
 だが、それでも私は燃え尽きて死にたい。最後まで弾きたい、歌いたい。この欲望と快感は、味わった者には分かるし、味わわなければ分からない。それが真実で、それでいい。
 六弦を弾く。
 
 葉月は東京からやって来た。
 神奈川は東京の隣の県であり、新宿までなら、片瀬江ノ島からは、小田急線一本で一時間程度しかからない。
 それほど離れた場所ではない。

 葉月とは歳が十離れている。
 葉月は十五歳だ。

 葉月は決して、可哀想な子、ではなかった。

続く…


次回予告

「………………あ、あの、なんといいますか、こう、みささんって、その、ハードな人生を送られて来たのですね,と言いますか、その……。みッ、みなさんはっ煙草はちゃんと大人になってから吸いましょうねっ、ハイ。……江ノ電勤務のお友達……いいなぁ……紹介してほしいです」

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