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春休み中に髪の毛を切ったらしい。少し茶色がかっているのは、色を抜いたんだろうと思う。
美樹が歩く速度を早めたので、ボクも携帯をしまって、半ば駆け足になった。
「よっす。おはよ」
高田が言った。ボクは学生鞄を膝前で両手持ちにして
「おはよ。休み中、元気だった?」
と微笑みで体を横に揺らした。
「まぁ、そこそこだなぁ。そっちはどうよ?」
高田は、笑うと左目がウィンクしたようになる。180あるとか以前に言っていた高い背の上に乗ったキレイ系の小さな頭で、今も、その笑い方をしている。キザだけどカッコいいよね、と中学の頃、女子の一部の間では、こっそりと話題になっていたけれど、ボクは別にそれにやられたわけじゃない。
「ボクはまぁ、別に大したこともなく」
「奈良さんは?」
奈良というのは美樹の名字だ。奈良美樹と言う。最後の一字以外は一緒だけど、奈良美智とは、なんの関係もない。
「『さん』!?」
裏返ったような大声で、美樹は顔を思いっきりしかめた。ボクは声に出さなかったけれど、心の中ではハモっていた。
「なんだよ」
高田は照れた。
「高校生になったんだからさァ、名字呼び捨てはマズくね?」
口ごもったような不明瞭な言い方で、自らの珍奇な言動を解説する。要するに言い訳だ。
「なにそれ、超ウケるー。キモいー」
美樹は意地の悪い視線を高田に突き刺して、中年女性のように、口もとに手をあて、もう片方の手をばたばたと動かした。
「んだよ、ったく……」
高田は前髪を掻きあげて、拗ねた。上げていない方の彼の腕を手のひらでたたいて、ボクは言う。
「ま、とりあえず行こうか。高田『くん』」
「山崎まで」
「呼び捨てはマズくね、って自分で言ったんじゃん」
高田は、その人を寄せ付けないような背の高さと顔の良さに反して。実に親しみ易い雰囲気のある奴だ。
だからまぁ、モテるんだろうし、ボクもまた、だから好きになった。
「高田、色抜いた?」
歩き出す二歩目あたりでそう訊いた。
「あん?」
ボクの方へ目を向ける。
「髪」
ああ……、と詠嘆のような長い声のあと、高田はまた照れながら言った。
「高校生だからな」
「……葉月さんにも普通の高校生らしい日々があったんですねぇ……。奈良美智さんは可愛い絵を書かれる現代アートの人ですね」
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